
関心高く市民や関係者130人が参加

司会・進行
濱砂一光医師
昨年12月1日、流山市初石公民館において「第3回公開医療倫理講座」(主催=東葛地域医療倫理問題研究会、後援=東葛病院、東葛健康友の会)が“認知症と向き合って生きる”をテーマに開催されました。講座には介護事業関係者をはじめ病院職員や市民など130人が参加しました。中沢正夫医師が「人は物忘れをしながら成長する動物」と題して講演。7人のシンボジストが意見をのべ、藤井篤弁護士がフロアから特別発言を行いました。それぞれの発言要旨を紹介します。
開会の挨拶
認知症について講演と現場からの貴重な報告を
伊藤淑子 (東京勤労者医療会総院長)

伊藤淑子総院長
みなさん、こんにちは。総院長の伊藤です。土曜日の貴重な時間に多数お集まりいただき、本当にありがとうございます。 私たちのこの公開講座は、第1回のテーマが「DNR」でした。「DNR」とは病気が進んでいろいろな治療をしても助からない、あと数週間の命になったときに、急に心臓が止まったり、呼吸が止まっても、心臓マッサージをしたり、人工呼吸器を付けたりしない。その討論の中で「人間いつかは死ぬんだ」という「死」について、日頃から家族や地域の人たちで話し合っておかなければいけないということが強調され、2回目は「死について考える」をテーマとしました。 今回は、皆さん関心のある認知症について、いろいろな分野から発言してもらいます。「認知症」の予防、認知症の診断、介護支援、認知症の方が病気になったときの病棟での看護の問題、認知症の重い方の治療をする上での医師の苦悩、実際介護をしておられる家族の方が発言されます。 講演は精神科医の中沢先生です。中沢先生は群馬大学の精神科医局を経て東京、千葉、埼玉などで精神医療をやられる中で一貫して、地域精神医療、開放病棟の治療をテーマとして活躍されてきました。 それでは中沢先生、よろしくお願いいたします。
講演
「人は物忘れをしながら成長する動物」
中沢正夫 代々木病院・精神科医師

講師・中沢正夫氏
本日のタイトルの通り、ただいま認知症と向き合って生きています。私にも認知症が忍び寄っていまして、日にちを間違って、処方箋を間違って、看護師さんに叱られています。でも、けっしてめげてはおらず、けっこう楽しんでいるんですね。 痴呆の簡単な検査は、記銘力、記憶力、それに簡単な知識を検査しています。記憶とはいったい何か。簡単に言うと、覚えこむこと、保持すること、必要なときに呼び出す。この三つがセットになったものです。最後までよく覚えているのは「体で覚えた記憶」で「手続き記憶」とも言います。例えば泳ぎ方は体で覚えていることで、頭で覚えているんじゃないです。「技の記憶」とも言います。将棋や碁のルールなども手続き記憶、あるいは運動性記憶と言います。ボケた人がちゃんと蕎麦を打つんですね。 体が覚えた記憶のほかに「陳述記憶」、頭で覚えて言葉や図形で表現する記憶です。出来事記憶とエピソード記憶および知識に分かれます。出来事記憶というのは、出来事を覚えている、記憶です。エピソード記憶は、生まれてからずっと時間経過に沿って刻まれている記憶です。言語ではない記憶もあります。知識のほうは「概念記憶」、言語的な記憶、記憶の一番大きい部分です。例えば、豊臣秀吉はサルと呼ばれたとか、そういう記憶です。これにも「非言語的な記憶」があるんですね。「この曲を作曲したのは多分モーツァルトだな」が言語ではない記憶です。記銘力のピークは14、15歳からせいぜい17、18歳です。それ以降は落ちるばっかりです。でも、気づかない。自分が興味をもったこととか自分の専門分野の知識を集中的に覚えているので、記銘力が落ちていることに気がつかない。定年になるとわかる。 知識を吸収しなくなると、全然覚えていなかったことがわかります。では記銘力を高めるにはどういう条件があるかと言いますと、好き嫌いです。「好きこそものの上手なれ」と昔から言いますね。もう一つは「概念化」です。概念化は、これとこれは一つながりだということが発達しないと覚えられないんですね。

第3回公開医療倫理講座会場 (12月1日、初石公民館)
一方、まったく見ていないのに覚えている記憶があるんです。繰り返し言われたり聞いたりしていると、あたかもそれを体験したかのように記憶します。自分が覚えていることが正確だと思っても、そんなことはないんです。 さて、記憶のメカニズムは、記銘をする、保持する、再現するというメカニズムは単独では動いていません。意志とか感情とか感覚とか動作と協力協同して、記憶を呼び出すときもチェックをしています。記憶をつかさどる神経回路が、いろいろなところからチェックを受けて正確な記憶にしているので、記憶だけに注目してはだめです。海馬とか辺縁系だけを注目してもだめなんです。記憶と痴呆は切っても切れない縁があるんですね。 人が覚えていることなんて、ほんの少しで、ほとんどは見た先から聞いた先から忘れています。ちょっと大切だなというのは4、5日は覚えて、もっと大切だと思ったらもっと長く覚えている。その取捨選択あるいはろ過といいますか、ろ過して、小さく折りたたんで脳の中に積み重ねていくわけです。私たちが見たり聞いたりしたものの何十万分の1ぐらいです。すべて覚えていたら、コンピュータでいえば容量オーバーで、何もできなくなる。私たちはどんどん忘れることによって、次のものを覚えていく、必要なものを取捨選択していくという、ものすごい組織、脳を持っているんですね。ろ過とか破棄とか一時保留とかという作業はコンピュータにはできない。自分が生きていくのに必要な、あるいは自分が必要だと思うものだけを選んで残していくことはコンピュータにはできません。「消す」という指示を出さないかぎり、消えない。我々の脳は「消す」という指示を出さなくてもみんな消えちゃう。 では「このことは忘れない」とするにはどうしたらいいか。強烈な刺激、感情、思い入れを伴っているものは忘れないです。記憶痕と言いますが、「これは覚えておけ」と脳に印を付けることです。感情と思い入れが非常に大切です。 老いてきて一番最初に気がつくのは「覚えられない」ことです。記銘力が落ちるというのは呼び出す力が落ちて初めて気がつくんです。「あの人誰だっけ?…」と出てこない。「やあしばらく」と言っても相手の名前が出てこない。そうなると愕然として、愛想が良くなります。「あんた誰でしたっけ?」とは言えないですから、とりあえず笑ってごまかす。アルツハイマー病の患者さんはみんな愛想がいいですよ。 記銘力が徐々に落ちていくのは正常なんですが、その落ちていくカーブよりもガクッとおちる、早く落ちていく場合が痴呆です。いくらたっても落ちない人も異常です。一番問題になるのは、〈自分で判断できている〉とは一体どういうことなのか。それを痴呆だけで判断していいかどうか。歳をとってから伸びる能力(結晶能力 クリスタルパワー)がたくさんあるということです。 具体的にはここでは話しませんが、一度死んだらだめだと言われる脳の細胞でも、作りかえられるらしいということがわかってきています。しかも驚くことに、記憶や知識を持ったその細胞や回路が、次に新しく作るときにはそれを移し替えているということがだんだんわかってきています。 そう考えると、記銘力は落ちても、歳を取ってからも伸びる能力で埋め合わせができる、それを生かせる社会作りをすることこそ大切ということになります。
シンポジウム
制度や人的資源を生かし総合的に支える
シンポジスト・安田卓代 (流山市中部地域包括支援センター所長)

安田卓代所長
流山市中部地域包括支援センターの安田です。包括支援センターとは、昨年4月の介護保険法の見直しで、高齢者の生活を総合的に支える地域の拠点として新設されました。流山市に4カ所あります。 職員構成は主任ケマネージャー(以下ケアマネ)・社会福祉士・看護師で、私は看護師です。病気や高齢により生活が困難になった時に介護保険、介護予防サービス、福祉、医療、権利擁護等の制度や、地域資源を利用して総合的な支援をします。
ご相談を受けるだけでなく、「介護予防教室」を兼ねた「町かど相談」の出前を今年は15回開きました。地域の民生委員さんは直接認知症の方と接する機会も多く、出前の積み重ねが顔の見える関係をつくり、認知症支援のネットワーク構築につながっています。地域のケアマネからの相談では、認知症に関する困難事例が相当含まれています。
認知症が進行すると、日常生活だけでなく医療や権利擁護・介護疲れなどからの虐待などさまざまな問題がいっきに押し寄せます。そのため介護保険を活用しながら生活される方が多くなります。そのプラン作成にあたるケアマネの後方支援や、助言も行っています。また毎月一回定例でケアマネ交流会を開催して認知症の学習会や後見人制度について専門機関の方と事例検討などを行ってきました。次回は高齢者がだまされやすい悪徳商法を学習します。
では事例をお話します。ご主人が奥様のことでご相談にお見えになりました。「2カ月ほど前から専門医を受診している。大学病院の先生の診断はアルツハイマーで薬は効かない。介護が必要で徘徊など周辺症状もかなりある」。すぐに介護保険の申請の手続き、行政の担当部署との連絡調整を行いました。訪問したところ、ご本人の不安や焦燥感もかなり強いものでした。ご本人は「どうしていいかわからない。治らないと家族に申し訳ない」とお話してくれました。
不安定な症状に個別対応可能な介護サービスを紹介して、家族と急に引き離すのでなく、初めは家族と一緒に介護サービスを、少しずつ利用して行ってはどうか、と提案をしました。初めはご主人の付き添いが必要だった通いのサービスも、少しの時間なら一人で過ごせるようになってきました。介護保険の利用でちょっと一息というところでしょうか。
お二人の生活をこれから一緒に少しずつ応援していきたいと思っています。
東葛病院付属診療所ものわすれ外来のまとめ
シンポジスト・戸倉直実 (東葛病院付属診療所副所長)

戸倉直実医師
内科の戸倉です。介護保険が始まり認知症の方はかかりつけ医がいないと介護保険が受けられないため、医療機関を受診するようになりました。 私の外来の約半数が認知症の患者さんになり、新しい方の受け入れが困難となりました。何とかしなければと「ものわすれ外来」を開始しました。当院の「ものわすれ外来」は認知症の診断をして、介護サービスに結びつけます。「ものわすれ外来」で認知症の診断・評価をし、アルツハイマーに有効なアリセプト(薬剤)が適応かを判断します。有効であれば、主治医に処方をつづけて頂きます。認知症を心配している方をすべて受け入れることにしました。受診時に本人のおっしゃっていることが事実かどうかわからないので、説明ができる家族が付き添われることを条件にしました。 結果は円グラフの通りです。4割の方はほぼ正常で、特に2割の方は全く正常でした。他のものわすれ外来と比較しても同じ傾向でした。調査では、患者さんの3分の1が介護保険を利用されていません。介護保険を利用しないで抱え込む傾向が強くサービス利用を度々勧めています。介護者が余裕のない対応をしていると、それが患者さん本人に鏡のように反射して、興奮し気持ちがすれ違い悪循環となってしまいます。中沢先生のお話にも、鑑別する病気としてうつ病が出ましたが、ものわすれ以外の病気を疑われる際は、専門医に紹介することを心がけています。
受診したその日は正常でも、半年後、1年後はわかりません。あとで診た医者ほど、診断がつきやすくなります。高齢者か認知症の方は入院したとき、熱が出たとき、体調が悪くなったときにガクンと能力が下がってしまいます。規則正しい生活をしていれば問題にならないことが、環境が変わったり、自分の能力が落ちたときに一挙に発覚してきます。 家族の気持ちとしては何とかしようと思って、「これ忘れてるよ」「こうしなさい」と言ってしまいがちです。けれども本人が一番「できない」「何とか今度は忘れないでやろう」と思っているのです。困ったことがおこりはじめたらなるべく早く認知症の診断を受けてください。治らないことが確認されたら困らない仕掛けを工夫してほしいと指導しています。 認知症が進行しても感情は消えないで残ると言われています。記憶力検査をする際、嫌な思いをさせるんですが、少しでも嫌な記憶ではなく、「診療所に来て、診てもらえてよかった」と思える工夫をさまざまに凝らしています。 私たちができることは、いつでも困ったときにあそこに行けばいるということが大事だと思って、これからも続けていきたいと思います。
医療と在宅介護チームの連携で安心なくらし
シンポジスト・斉藤幸子 (東葛病院・居宅介護支援事業所所長)

斉藤幸子所長
東葛病院居宅介護支援事業所は7人のケアマネジャー(以下ケアマネ)が介護の相談に対応しています。病院併設なので病気治療後、介護が必要になった方の相談が多いのが特徴です。現在約230件の方のケアプランを担当しています。担当件数の4分の1・介護の相談の内3分の1の方に認知症状が見られます。 家族が相談にこられて「お風呂に入らなくなった、片付けができない、自分のことができない、危険な行動を行うようになった」など生活全般に支障をきたし、「患者から目が離せない、手助けしないとできない」など疲れ果てている場合があります。 認知症の方は高齢の方が多く、何らかの病気を持っている方が殆どです。病状が悪化すれば、認知症状も悪化します。認知症の方が『入院』というふだんの生活と全く異なる状況になったときは、ご本人が治療を受け入れられるのか、医療者が患者としてきちんと治療してくれるのか、とても心配です。患者さんの病状が改善しなければ、介護サービスだけで生活を支える事は困難です。体調の悪い方がディサービスを利用することはできません。入院治療が困難と自宅療養を言われても家族は困ります。病状が改善しない限り次の手段はありません。家族は医療側に見放され感を抱いたりします。 認知症の方の入院は医療事故や転倒など防ぐため、以前は手や足を拘束することもありました。拘束されることで心身の状態が悪化してしまうため、現在では拘束廃止の取り組みをしています。 その反面、看護職員も手厚くしないと事故を防ぐことができません。特に夜間帯はスタッフも減り常時付き添うことはできません。私も以前は病棟で勤務していました。医療現場の状況も良く理解できます。しかし必要とする医療を受けなければ在宅生活も困難になり、生命の危機にもなりかねません。認知症の方にとって入院は安心できる場所ではなく、治療は苦痛だけを強いられるのかも知れません。 社会に貢献し、地域に根付いていた方たちです。認知症があっても一人の人間として理解し、その方に合った対応や治療をすることがその方の尊厳を守ることではないかと思います。 医療現場の対応には在宅スタッフの情報や協力が必要であり、本人が安心し、家族が納得のいく治療方針が求められるのではないかと思います。医療と在宅介護チームがうまく連携できることが地域の方々が安心して暮らせると言うことなのではないでしょうか。
患者さんの不安を取り除く看護が大切です
シンポジスト・山崎由美子 (東葛病院副総看護師長)

山崎由美子副総看護師長
東葛病院は2次救急病院であるため、認知症を持った方が心不全や肺炎、消化器の検査、骨折の治療など、緊急や予約で入院されます。病棟の現状と今後の課題についてのべます。
1、病気の緊急性から予約や緊急入院となりますが、患者さん本人が病気の自覚を持っていないことが多くあります。突然家から連れて来られたという不安感が大きい。患者さんにとっては、ここはどこなのか、だれも知っている人はいません。私を置いて夫や息子(娘、嫁)は、帰ってしまった。見捨てられたのだろうかと不安になります。
2、その上、患者さん本人には治療という行為が理解できないこともあるので、突然注射された、点滴された。何をされるかわからない、とんでもない…と、不穏行為が出現することが多くあります。そのため患者さんは、ここにいたら、何をされるかわからない。なぜ、独り残されたのか、早く家に帰らなくてはと、徘徊が始まります。 私たち医療者は不穏行為と見てしまいがちですが、患者さんにとっては各々の行為が本人なりの理由があるんです。 しかし、あれもこれもだめと禁止されると、自己否定されたことに繋がり悪循環になります。そのため、私たち医療者には治療と環境に対する不安を最小限にしていくことが、求められています。 まず、入院時に在宅で関わっているケアマネジャーや訪問看護師から情報を得て、患者さん本人の不安の軽減を図っていきたいと考えています。 看護師が「どうして?」と、倫理的に疑問を感じた時、医療チームとして納得のいく事例検討会を実施していくことが大切です。
患者・家族と医療者の合意をつくる粘り強い努力
シンポジスト・本間 章 (東葛病院院長)

本間章院長
急速な高齢社会を迎え認知症患者さんは増加し、現在169万人から2015年には250万人になるといわれています。 認知症患者さんがいろいろな病気を抱え医療機関を訪れます。しかし判断力の失われた重度の認知症患者さんに手術や、苦痛を伴う検査を受けていただくのかどうかの判断基準は明快なものがないのが現状です。そして特に重度の認知症の患者さんに重大な病気が疑われた時、患者さんの理解や、協力が得られなければ手術や検査はできないわけで、検査や手術、入院をすることさえ悩むことがあります。一方患者さんの家族からみると、認知症があるがゆえに入院できない、普通の医療が受けさせてもらえないのでは、などの不安感を持っておられることも事実です。 現代医療においては、説明と同意ということと自己決定権が強調され、患者さんと医療者がその治療のメリット、デメリットを理解し、納得して治療を受ける、行うということが求められています。 しかし重度の認知症の患者さんでは治療の意味や苦痛などを理解することは困難で、協力を得るのも困難なため、家族との合意で進めなければなりません。家族としても重大な決断を要求されてもどうしたらいいのか戸惑うことも多いと思われます。 また反対に医療者側が良かれと思う治療を本当に理解できているのかどうか考えずに決めてしまう恐れもあります。人権と尊厳を守るということを念頭に、患者家族と医療者の粘り強い合意を作る作業をして、決断に至らなければならないのではないかと考えています。 世界7カ国の大学医療センターの医師にたいして認知症患者さんの治療について質問をしたところ、一致した意見は得られず、たとえ癌であっても痛みの治療としての手術はほぼ合意されるが、痛みのない場合手術することにためらう意見が多かったという報告があります。 私たちの事例検討の中で、高齢な認知症の患者さんが同じ大腸がんでありながら手術を受けた方と、受けなかった方の検討の中で、手術の危険度、治癒するかどうか,患者さんの苦痛の除去、メリットなどを勘案して判断することになった経験があります。 まとめ 医療者、家族が考慮しておくべきこと 1、医療者も認知症の原因、重症度、予後評価などを正確に診断すること。大変難しいことだが、一時的せん妄など意識障害と認知症の区別をしっかりつけなければなりません。 2、治療の中止と差し控えの決断の困難さ 治療をしないでおくという決定は本人の意思を忖度して,QOL(生活の質)、メリットなどを総合して決められる場合が多いが、かなり難しい判断を必要とします。決断が困難な場合、治療をしてみて状況を見て中止の方がよいのではないかと思います。 3、病院における問題点としては、認知症の患者さんが安全に入院生活を送ってもらうことの困難さ、病院のハード面、マンパワーの面などで限界があり、ある程度自立している人でないと管理できないという実態もあります。 4、事前の代理治療 患者と家族、医療者が協力してあらかじめ治療方針の基本をつくる。患者さんの医療に対する意向がどうだったかを大切にして判断することが求められます。 最後に 認知症患者さんが安心して暮らせる街づくりの一員として、病院、医療従事者もその力を発揮していきたいと決意をのべてまとめとします。
老老介護はセカンドハネムーン
シンポジスト・塚脇章生 (患者家族)

塚脇章生氏
私は72歳、11年前に民間企業を定年退職しました。69歳の認知症で要介護3の妻を在宅介護中です。妻の発症の気付きは4〜5年前。妻の妹から「時間発語の異常」の指摘があって。当初は失語症と考えていました。現在の生活は、セカンド・ハネムーンと称し、会話と笑顔の多い環境づくりに努めています。
1、発症から、受診までのポイント
(1)日常生活で表れる異常サインに家族が注意し、年のせいと考えない。(2)サインに気付けば、地域包括支援センター等の関係機関に早期に相談し、短期間で対応をする。
2、介護保険認定でのポイント
(1)訪問調査員が充分に理解できるように、患者の状況、介護者が日頃の介護で困っていることを資料にまとめて作成しておく。(2)介護者は訪問調査員との面談時に作成した資料をもとに充分時間を掛けて、状況をご説明する。(3)介護保険の調査項目は多いが、身体障害の項目が大部分で、認知症等の知的・精神障害の項目は少ない。よって、特記事項に詳細を書いて頂くことが重要で、調査員の熱意とご苦労を引き出すこと。
3、妻のピアノ
妻は健全時よりピアノレッスンに通っていた。
一昨年、突然自分でレッスンを辞めてきた。継続の説得をするが、本人の意志は固く、レッスンに通うことにかなりの不安を感じたためと理解した。
その後、現教室の先生に出会い、妻の病気をご理解頂き、私と同行するレッスンを再開した。自宅では、毎日、午前と午後、私が横に座りレッスンでの注意の確認と、拍手をするなど、かなりオーバーな「誉めそやし」をしながら弾かせている。
昨年9月には発表会に出演。リハーサルは難航し不安一杯であった。短い曲ではあるが2曲を無事に弾き終えた。認知症を理解し、言葉の理解が困難な妻を熱心にご指導頂いた先生のご苦労の結果と感謝している。ピアノは趣味と同時に、全人間的復権を目指すリハビリと考えている。
4、「認知症と向き合って生きる」とは
(1)介護者は認知症に関する知識、思考や言葉が混乱することが多い人と対話する方法を学ぶこと。(2)介護者の心身共の健康、介護者自身を労わる方法を探ること。(3)患者への対応は時には「ウソ」も方便と考え、役者になること。(4)出来ないことを考えない。未だ残っている能力を引き出すこと。(5)ボケた、物事の理解が出来なくなった人との生活ではない。プライドや自尊心のある、研ぎ澄まされた感情を持つ人との生活である。(6)介護者はなんでも完璧にしようとはしないこと。以上です。
フロア発言
任意後見人制度を有効に活用しよう
藤井 篤 (弁護士)

藤井篤弁護士
成年後見人制度は2002年4月からスタートした制度です。この制度を活用していけば、認知症の方などを含め積極的に対応していくことができる制度です。 最近、成年後見開始の申し立てを2件しました。1件は失敗でした。医師が意見書を作成するのに6カ月以上かかってしまい、申し立てをした家族がこの間に方針を変え、取り下げることになってしまいました。本人は統合失調症の患者さんで精神病院に入院していました。 もう1件の方は、若い女性でやはり統合失調症で精神病院に入院していました。親族の同意により入院していましたが,突然ある男性と結婚し退院となりました。この女性はあちこちでお金を借りてしまうため、母親が心配して後見人を付けたいと依頼してきました。いま申し立てをやっている最中です。 後見開始の申し立て後の手続は、本人について後見を開始する必要があるかどうかの事実を確認することが中心です。医師の診断にかなり時間がかかることがあります。裁判所の判断にも時間がかかります。いざ後見を開始したいというときでも、すぐには対応できないのです。 必要な状況になったときすぐに後見を開始できる制度として、任意後見の制度があります。事前に、本人が後見人となる人や法人との間で、あらかじめ「自分の具合が悪くなった時には後見人として,こういうふうにやってほしい」という内容の公正証書を作成しておきます。 任意後見人となるのは社会福祉法人でも可能です。認知症の方が病状の進行する前に任意後見の契約をしておくと、いざという時にすぐに対応できます。 この制度では、まずは財産管理が中心になります。また本人の生活設計について、後見人と連携してケアマネージャーが介護保険についての決定などをスムーズにできます。相互支援センターなどがそういった手続きに関わることも可能だと思います。 認知症の患者さんに対応する皆さんには、任意後見人制度の活用も視野に入れていただきたいと思います。 |